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Vol.24「凡夫の悲しさ」

 先週はどうしても更新できませんでした。
 拙コラムを楽しみにしていただいている皆さんにはたいへん申し訳ないです。連載スタート以来、どんなに遅れても週一の入稿は何とか怠らずにきたのですが、先週ばかりはどうしても入稿できませんでした。理由はレコーディング・スケジュール等の物理的状況ではありません。私の人生を決定づけたひとりの男性が逝去したのです。

 ご存じのように、ルーサー・バンドロスが7月1日に亡くなりました。

 これまで特に説明することもありませんでしたが、私が代表を務める事務所の名前は彼の81年のソロ・デビュー・シングルのタイトルに由来しています。初対面の方に名刺を差し出した時、この事務所名にすぐ反応してお声をかけて下さることがあります。国内だと20人にお会いして1人の割合でしょうか。米英のR&B業界の方なら、まず十中八九。そんな時、私は不覚にもビジネスマインドを失してしまいます。好きなことを生業にしてしまった者特有の甘さなのかな。駄目だな、私は。

 ルーサー逝く。この重すぎる現実にどう対峙すればよいのか。心の整理つかず、数日が過ぎました。本コラムにその想いと思い出を綴ろうと思いあぐねてまた数日。書いては読み直し、自分の文章力のなさに嫌悪すること数日。それでも書いては、消去。書いては、消去。結局今日に至りました。

 彼の死後、久保田利伸さん、和田昌哉さん、川口大輔さんといったシンガーの方がた、それに私の元マネージャー・渡辺祐さんからも弔いの言葉をいただきました。「ご親戚でもないでしょうが」と気遣ってくださったのがありがたかった。

 山下達郎さんは、メル・テイラー(ベンチャーズのドラマー)が1996年に亡くなった時にご自身が抱かれた感慨がちょうど今の私と同じようだった、と。当時達郎さんが雑誌「CUT」に連載されていた音楽コラムのメル・テイラー追悼文は、確かに今の私の心情を言い表しているような気がしてなりません。その書き出しは以下のようなものでした。

「形あるものは必ずいつか失われる時が来る。などと、頭ではわかっているつもりでも、凡夫の悲しさ、いざとなると動揺を隠せない。」

 終生日本の地を踏むことがなかったルーサーのステージを、私は幸運にも5回ほど観ています。それのみならず、終演後の楽屋を訪ねたり、宿泊先のホテルを訪ねて長時間インタビューした経験もあります。そのことを知るファンの方がたから、本連載でその話を書いて欲しいとのご要望をいただいているのですが…ごめんなさい。その時期が来るのを待っていただけませんか。

 いま私の手元には、彼とのツーショットのポラロイド写真があります。
 彼のまるい笑顔は永遠のものです。その歌声もまた。

 それでは、また来週。

 

Nelson George『Buppies, B-Boys, Baps & Bohos』
(1993年。2001年に増補版が刊行)
ルーサーについてのコラムを収録。最も優れた短評のひとつ

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