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Vol.49「ここでしか読めないプロダクションノーツ~その1~」

 ゴブサタです。今月、あやうくコラム1本で終わるところでした。シーマセン。
 というわけで、ギリギリ駆け込み、今月2本目のコラムです。

 さて、ついにCDデビューした仲間由紀恵 with ダウンローズ。このHPにもご感想やお問い合わせを多数いただいております。そういったお声にお応えできるかどうかわかりませんが、私なりの回答がわりのコラムを。

 実は仲間さんのスタッフから音楽面についての相談を受けたのは一昨年のこと。以来、10代の頃にリリースしたCDを聴きこんだり、主演ミュージカル『スター誕生』を観に行ったりして、シンガーとしてのポテンシャルをさぐっていました。

 うたう女優。私の夢想に登場した美女たちは…マリリン・モンロー、松坂慶子、二コール・キッドマン、そしてバネッサ・パラディ。以上、順不同、敬称略で失礼。

 しかし、ご存じのようにこの2年の間に彼女の女優としてのキャリアは飛躍的に上昇。当然スケジュールは多忙を極め、早い話、音楽どころではなくなりました。彼女を想定して何曲か用意したものの、レコーディングの機会は当分巡って来ないかと思われました。

 以前から出演しているauのCMソングを彼女自ら歌うというお話が浮上したのは2005年秋。auといえば、仲間さんが菊川怜さんと出演した2002年12月期のauのCMには私がプロデュースしたCHEMISTRY meets Skoop On Somebodyの「My Gift to You」が使用されていました。ですが当時は菊川さんとしかお会いしていなくて。余談ですが。

 まず試みたのはそれまで放映済みCMの中のYUKIE withダウンローズのキャラクターの検証。結果、初期m-floとおぼしきクラブ・オリエンティッドな男女混成グループを戯画化したものと推測。その後、実際にCMのコンセプトを作ったプランナー氏に会い、企画意図をあらためて確認しました。この時点で私がおぼろげながらにも考えていた楽曲イメージは、CM視聴者の予想に応える案、裏切る案の2つでした。

 幾度かのトライ&エラーを繰りかえし、裏切る案を選択しました。仲間さんがLISAちゃんやクリケイちゃんを模倣してどうなる? もっとクラシック、もっとエバーグリーンな佇まいこそが、歌手・仲間由紀恵には相応しいのではないかと。とはいえ、肝心なのはダンスミュージックという軸だけはブレないこと。じゃないとあのビジュアルの意味がない。そこでたどり着いたのがモータウン・ビートです。私の頭の中にはダイアナ・ロス&シュープリームスやマーサ&バンデラスが鳴り響いていました。

 何しろ「モータウン歌謡」という言葉が存在するくらいですから、歌謡曲そしてJ-POPにおけるモータウン・ビート導入の歴史は長い。和洋折衷のココロ。ならば作曲を依頼するのはこの様式美の史上最高の作り手、筒美京平さんしかいない。そう思いました。

 複数作っていただいたデモの中から迷わず選んだのが現在の曲です。京平先生自らの手弾きデモの時点で既にコード進行は現在の構成、ギターリフもあのラインで入っていました。それは今回の編曲担当の人気アレンジャーMaestro-Tをして「ひとつも変える余地がありません…完璧です!」と言わしめたほど。もっとも、そうは言いながらも、ちゃっかり印象的な間奏パートを織り込んでしまうあたりが流石Maestro-Tなんですけれど。

 オケの方向は定まりました。しかし、まだ…私にはどうも今ひとつ最終形が見えなかったのです。これまでのau CMウォッチャーの予想を心地よく裏切るためには、もう一点でいいから、「確信犯」としての手ざわりを残したい。曖昧さを断ち切るためのアクセントを作りたい…。京平先生の楽譜とにらめっこを繰り返して辿り着いたアイディアが彼女の女優としてのキャリアを最大限に生かした仕掛け…セリフの導入、でした。「それは君だ!」「認めます!」部分はこうして生まれました。

 歌詞の基調色をLOVEとするのは早々に決めました。縦糸に現代性、横糸にポップな昇華という2つの命題が念頭にあり、加えてダークな裏打ちの必要を感じてもいました。なぜなら、いつの時代でも優れたラブソングには隠し味として孤独への恐怖が含まれているからです。そのために裏モチーフにしたのはマンション耐震強度偽装問題の渦中にいた姉歯秀次元建築士。ちょっと桐野夏生チックな視点で彼の人となりを考察してみました。

 勿論、あくまでCMソングですから、ケータイというきわめて現代的なツールについて考えることにも多くの時間を割きました。この手のひらに収まるブツがどれだけ人の生活や考え方に影響をおよぼすのだろうかと。正直その答えは出なかったのですが、考える過程で痛感したのは、どんな最新機種を使うかよりも誰と何をコミュニケートするか、それが問題だと。仲間さんにしか歌えない理由がそこにあります。

 以上、本HPでしか読めない極私的プロダクションノーツでした。

 それでは、また来週。

 


CHEMISTRY「My Gift to You」(2002)

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