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Vol.7 「過去原稿再録:『Domani』2004年10月号(表参道特集)より」

 この原稿の依頼の電話を受けた時、ぼくは表参道駅からほど近い青山ブックセンター(ABC)にいた。

 その前は自宅から代々木公園を抜けて明治神宮まで歩き、土を踏みしめる感覚を楽しんできたのだった。勢いあまって一気に表参道の雑踏を抜けて喉が渇いたぼくは、ナチュラルハウスでエデン・ソイを買い、お気に入りの場所である国連大学の裏道でそれを飲んだ。

 涼を求めて、というところが多分にあったのは否定しないけれども、そのまま敷地内のABCに入ったのは一応の目的もあった。現在プロデュース準備中の17歳の少女が愛読書だと教えてくれた唯川恵の文庫本をさがそうと思ったのだ。がしかし、それは見つからず。気がつけば映画批評の新刊書をずいぶんと長い間立ち読みしていた。ま、ABCらしいといえばABCらしい、そんな利用法ではありました。

 ABCが倒産したのは翌日のこと。これにはぼくも参ったね。この件について語るのが本稿の主旨ではないが、これでまた表参道界隈の楽しみがひとつ失われてしまったことは確かである。がしかし、表参道はいつもこうして街の風景を変えてきたのでなかったか。

 15年ほど昔のこと。表参道と明治通りの交差点…ちょうど今GAPになっている一帯に原宿セントラルアパートなる古いビルがあり、ぼくはその一室を改造したラジオの収録スタジオに週二回のペースで通って番組を作っていた。週替わりで英語の堪能な女の子たちを集めての収録現場は、志は低かったがテンションは高かった。ぼくは音楽とお酒と女の子が好きな、まあ言ってみればごくごく平均的な学生だった。

 好きなものは15年くらいでそう変わるものではありません。では、表参道は変わったか。ぼくはそれを確かめるべく…というのは嘘で、たんに小腹が減ってきたのと映画本が読みたいのとでさっき来た道を引き返す。増えたのはヨーロッパの巨大ブランドの旗艦店。消えたのは同潤会アパート、セントラルアパート、そして…。

 GAPの上のピザエクスプレス。窓際の禁煙席に座り、小ぶりのマルゲリータを手頃なキャンティクラシコで流し込む。向かいのラフォーレを見下ろせば、あの頃はなかったHMVの店外スピーカーから大音量でアリシア・キーズが流れている。ラフォーレは今日もまぶしい女の子たちを吸い込んでは吐き出す。お店を出てきた彼女たちがいっそうまぶしく見えるのは気のせいではないだろう。あの頃のように。

 表参道には、変わりゆく変わらないもの、がある。

 

*今週は松尾潔多忙につき、書き下ろしコラムはお休みし、過去の原稿を再録いたしました。
 なおABC青山本店は2004年7月16日に閉店後、同年9月29日に営業再開しています。

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