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2005-03

Vol.10 「春なのに」

 春なのにお別れですか。と柏原芳恵さんが歌ったのが1983年。
 なんでよく覚えているかというと、その曲がヒットしている頃に私は中学を卒業したのであります。中島みゆきさんの歌詞のよさがわかったのはそれからずいぶん後のこと。正直、ヒット当時はあまり共感できなかったなあ。何しろこっちは男子校。卒業式当日でさえ泣いている友だちはいなかったような気がします。

 bayfm『松尾潔的音楽夜話』が、昨日(3月29日)の放送をもって終了いたしました。ご愛聴ありがとうございました。考えてみればbayfmで初めておしゃべりしてからもう15年が経つわけですが、とりわけこの『松尾潔的音楽夜話』には愛着がありました。放送枠を移動しながらもリスナーとbayfm編成部員の方がたの熱意で続いてきた「首都圏FM業界の奇跡」たるプログラムでした。
 何しろ2年半前のスタート当初から、スポンサーなし、台本なし、リクエスト受付もなし。松尾潔がR&B音源をスタジオに持ち込み、曲をかけて思うままお喋りするだけ。番組をお聴きの方ならご存じでしょうが、私の10数年来にわたるお付き合いの中野ディレクターの脱力的センスと神業的スキルで何とか番組の体裁を保っていたのです。ちなみに彼もその昔はエモーションズ等のCDライナーノーツで健筆を振るっていた御仁。この番組の前身ともいえる『SOUL SYSTEM』(FM横浜。1998 ̄2001)の能勢ディレクターといい、その番組プロデューサーだったDJ OSSHYといい、ソウルマニアって人たちは確実にいるんですよ、ラジオ業界にも。

 「ソウルバーで隣に座ったおしゃべりな男」というのが番組コンセプトでしたから、そこでかかっているレコードのクレジットを読みあげて薀蓄を披露することはあっても、事前に原稿をつくることはありませんでした。それゆえ失言も多かったし、失念による言い忘れも多かったなあ。今だから言いますが、CDさえ持ち込まず、まったくの手ぶらでスタジオに入って、ただ中野ディレクターの顔をみながらダラダラ喋り通した放送回もありました。マニア同士ってのはそれでも頭の中で同じ曲が鳴っているわけです。まあ映画でもサッカーでも、マニア同士の会話ってそんなものかと思いますが。番組スタートからしばらくの間は、こんな与太話を聴いてくれる人なんているのかと半信半疑でしたが、マニアっていらっしゃるもんですね、全国に。

 今でも語り草になっているエピソードがあります。番組に多数のメール・ファクス・お手紙が寄せられるようになった頃、調子に乗った私と中野ディレクターで「お便り特番」を企画。あらためて特番用のお便りを番組内で募集すると、急に風が凪いだようにメールもファクスもゼロになってしまった…それまでの投稿者の誰もが番組で紹介されることを望んでいなかったという。

 もうひとつお別れの話を。1957年の開業以来、良質の商業演劇を上演し続けてきた日比谷の芸術座が3月27日をもって48年の歴史に幕を下ろしました。
  最後の演目はもちろん森光子さん主演の『放浪記』。菊田一夫の作・演出、三木のり平の潤色によるこの作品、以前から観たいと思いながらずっと観そびれていた私ですが、幸いにも今回のチケットを入手することができ、初めて鑑賞することができました。
 ディープでした。森さんがたどりついた境地に手が届く女優は今後おそらく出てこないのでは。それは能力や資質の問題に加えて、スターシステムの変遷、商業演劇を取りまく状況の変化にも理由を見出せる事柄なのでしょうが。カーテンコールでは実にいろんなことを考えさせられました。
 芸術座48年の歴史の最後にすべり込めた僥倖を身に沁みて感じています。劇場で購入したパンフレットも読み応えのあるもので、就寝前の喜びがまたひとつ増えました。
 なお今回の閉館はビルの建て替えに伴うもので、2007年11月には新劇場がオープンする予定です。東宝は2008年1月からその新劇場で「放浪記」を上演することを発表しています。その時、森光子さんは87歳になっているということです。

 最後に、弊社秘書もふれていた映画『サイドウェイ』について。私は映画館に2回足を運び、2回ともその足でワインバーへ直行しました。アレクサンダー・ペイン監督はキャメロン・クロウと並んでいま最も私ごのみの脚本を書く映画人です。

 それでは、また来週。

Vol.9 「一日も早い復旧を」

 その時、私は出張先の軽井沢のホテルにいました。
 チェックアウト・タイムが迫ってもベッドでまどろんでいたら、つけたままのテレビから故郷・福岡のただならぬ光景が流れてきて驚きました。

 実家と電話がつながったのは結局1時間ほど経ってから。
 親しい人たちの無事を確認するまでの動悸は今まで経験したことがないものでした。
 阪神淡路大震災の時、被災地出身の知人たちはこれに似た気持ちを抱いていたのですね。何人もの口から何回も聞いた筈なのに、その実私は何も理解していませんでした。
 無知の知はいつも遅れてやってくる。

 地元の親しい友人からのメールには「福岡でも震度6クラスの地震がある」ことに大きなショックを受けた、とありました。
 まったく同感です。進学で上京する際に「東京は地震がよく起こる」という話を何回聞いたことか。概して西日本出身者は地震に対しての耐性が乏しいように思います。実感を伴わぬ想像力にはおのずと限度が生じるものです。

 高校時代の同級生のメーリングリストに名を連ねているおかげで、地震発生以来コンスタントに細かい現地報告を受けています。
 中心地・天神の福岡ビル(通称『福ビル』)は360枚の窓ガラスが割れたそう。付近の歩行者が怪我を負ったとしてテレビで繰り返し放映されていました。
 福ビル。その中の文房具店で私は初めてのシャープペンシルを買った。本屋で初めての『POPEYE』を買った。プレイガイドでソニー・ロリンズのコンサート・チケットを買った。レコード店ではデビュー間もない早見優の宣伝ポスターを譲ってもらった。
 そして現在、福ビルはかつての同級生の勤務先でもある。

 ただ、離れていると実感が得がたいのも事実。こんな時に自分に何ができるのか、自問しています。そんな思いをかかえながらスタジオに入ってラブソングを作っています。
 世の中を変えることはできないが、小さな何かはできるんじゃないか。

 まだ余震がつづくとも聞きます。
 福岡在住の方がたは心身ともにお疲れのことでしょう。
 今はただ皆さんの身の安全と福岡の街の一日も早い復旧を心から祈っています。

Vol.8 「オコタエシマス~その1~」

 いつもご愛読ありがとうございます。

 このコラムも始まって2ヶ月近くが経ちました。今回はこれまで本HPに届いたメールの中から「紹介してもよい」と許可をいただいたものをいくつか引用させていただき、私がそれらにお答えいたします。

 まずはお祝いメールから。

CDを買ったり、レンタルしだしたころ、初めて僕はR&Bを『smooth』で意識しました。あのころはまだ聞き始めたばっかりで、ロックもポップスも、何にも区別が付きませんでした。そして何が自分好みなのか知りませんでした。だけど、smoothを聴いてから、僕はR&Bと、そしてそれが僕の好みだと知りました。(二回書いてますね。笑) 気づかせてくれてありがとうございました。というか、ずっと松尾さんの公式サイトを待ってました。本当に、嬉しいです。これからもがんばってください。

 (以上、「Jun1」さん。タイトル「待ってました。」) 

 文面から察するに10代の学生さんでしょうか。R&Bの底なし沼へようこそ!

 それにしても「何が自分好みなのか知りませんでした」というフレーズはリアルですね。私にもありました。そういう時期。洋楽を意識して聴きだしたのは中学生の頃ですが、その時期はロックもポップもテクノも同列で聴いていましたよ。ただ、ロックでもギターがギンギン鳴ってたりパンク色の強いものは苦手でしたね、今思えば。たとえばYMOなら「タイトゥン・アップ」、クイーンなら「地獄へ道づれ(Another One Bites The Dust)」を繰り返し聴いてしまうわけですよ自然と。それらに通底する音楽性を「ソウル」と呼ぶ、と知った時は目の前の霞が晴れたような気分でした。それからは「ジャケットに黒人が写っていると片っ端から聴く」状態に突入しました。懐かし。

 お祝いメールは年季が入ったR&Bファンからもいただいています。

松尾さんを師匠と崇めて、早11年。この人についてきて間違いはなかっス。ほんとですか?!こちらのサイト、かっこいいです。自分のBlogで紹介しちゃいました(*^_^*)これからさらにコンテンツが増えていくのを楽しみにしています!! 

(以上、misaoさん。タイトル「楽しみにしてます!!」)

 misaoさんには、私の常套フレーズ「よっ、ご同輩!」をお返ししましょう。

 続いては、R&B上級者からのご質問メールを。

松尾さんも敬愛してやまないブライアン・マックナイトの新作で、ジョーやエリカ・バドゥなどのマネージメント&モータウン社長のキダー・マッセンバーグの名前が見当たりません。なぜでしょうか?遂にブライアンとも縁がなくなったのでしょうか…もしかしてモータウンの社長も辞任してるのでしょうか。飛ぶ鳥落とす勢いの頃を考えると夜も眠れません。よろしくお願いいたします。  

 (以上、「マロ」さん。タイトル「キダー・マッセンバーグ」)

 

 マロさんの悲しい予感は当たりです。キダー・マッセンバーグはモータウン社長の職を辞しています。新任はエレクトラのCEOだったシルビア・ローン女史。情報筋によると、キダーさんは現在自分の新レーベル設立準備中とのこと。
 ネオ・ソウル以前、そう、ニュー・クラシック・ソウルという呼称が日本とイギリスで広く流布しはじめた頃、ロンドンはノッティングヒルのR&B/ヒップホップ専門のレコード店に行くと、カテゴリー名として”New Jack Swing”や“Flyte Tyme”と並んで”Kedar Massenburg”があり、驚いたものです。当時はA&Rやマネージャーという役割を超えて「キダー・マッセンバーグ」はジャンル名として成立していたんですね。現在の彼を取り巻く状況は確かに寒いものですが、私は捲土重来を期待しています。

 お次は、私のプロデュース作品について。

はじめまして。私は韓国のグループ「東方神起」の大ファンです。今回彼らのセカンドシングルを、松尾さんがプロデュースされると知り、大変期待しております。(中略)お恥ずかしい話ですが、私は彼らのお母様と同じ年代だと思います。その私が彼らの歌に癒され、励まされています。彼らには年代を超えて、たくさんの人を感動させる力があります。私の周りにもたくさん同年代のファンがいます。どうぞ彼らが日本で活動してよかったと思えるようにしてあげてください。(後略)  

 (以上、「まひろ」さん。タイトル「東方神起のセカンドシングルへの期待」)

 情報が早いですね。4月27日リリース予定の東方神起の新シングルは、彼らにとって初めての日本語作品となります。私も彼らのポテンシャルの高さに刺激され、妥協のないプロデュースを続けています。耳の肥えたまひろさん世代のファンのみなさんのご期待にお応えできるよう、全力で頑張りますよ。以下、5人のメンバーへの私の心の声を。

 ・チャンミン:最年少なのにコーラス巧いよねえ。頼りにしてるよ。
 ・ユンホ:リーダーの自覚たるや良し。日本語の上達ぶりに驚いてます。
 ・ジェジュン:そんな瞳で僕を見つめられると…その色気は凄すぎ!
 ・ユチョン:Mr.スタイリッシュ。英語MCのパートを増やしてしまいました。
 ・ジュンス:君の歌声はアジアの宝。惚れてます。

 というわけで、今回はまずこんなところで。
 なお、デモテープ送付についてのお問い合わせも多数いただいていますが、現在のところ本HPを使ってのオーディション等は考えておりません。ご了承ください。

 それでは、また来週。

Vol.7 「過去原稿再録:『Domani』2004年10月号(表参道特集)より」

 この原稿の依頼の電話を受けた時、ぼくは表参道駅からほど近い青山ブックセンター(ABC)にいた。

 その前は自宅から代々木公園を抜けて明治神宮まで歩き、土を踏みしめる感覚を楽しんできたのだった。勢いあまって一気に表参道の雑踏を抜けて喉が渇いたぼくは、ナチュラルハウスでエデン・ソイを買い、お気に入りの場所である国連大学の裏道でそれを飲んだ。

 涼を求めて、というところが多分にあったのは否定しないけれども、そのまま敷地内のABCに入ったのは一応の目的もあった。現在プロデュース準備中の17歳の少女が愛読書だと教えてくれた唯川恵の文庫本をさがそうと思ったのだ。がしかし、それは見つからず。気がつけば映画批評の新刊書をずいぶんと長い間立ち読みしていた。ま、ABCらしいといえばABCらしい、そんな利用法ではありました。

 ABCが倒産したのは翌日のこと。これにはぼくも参ったね。この件について語るのが本稿の主旨ではないが、これでまた表参道界隈の楽しみがひとつ失われてしまったことは確かである。がしかし、表参道はいつもこうして街の風景を変えてきたのでなかったか。

 15年ほど昔のこと。表参道と明治通りの交差点…ちょうど今GAPになっている一帯に原宿セントラルアパートなる古いビルがあり、ぼくはその一室を改造したラジオの収録スタジオに週二回のペースで通って番組を作っていた。週替わりで英語の堪能な女の子たちを集めての収録現場は、志は低かったがテンションは高かった。ぼくは音楽とお酒と女の子が好きな、まあ言ってみればごくごく平均的な学生だった。

 好きなものは15年くらいでそう変わるものではありません。では、表参道は変わったか。ぼくはそれを確かめるべく…というのは嘘で、たんに小腹が減ってきたのと映画本が読みたいのとでさっき来た道を引き返す。増えたのはヨーロッパの巨大ブランドの旗艦店。消えたのは同潤会アパート、セントラルアパート、そして…。

 GAPの上のピザエクスプレス。窓際の禁煙席に座り、小ぶりのマルゲリータを手頃なキャンティクラシコで流し込む。向かいのラフォーレを見下ろせば、あの頃はなかったHMVの店外スピーカーから大音量でアリシア・キーズが流れている。ラフォーレは今日もまぶしい女の子たちを吸い込んでは吐き出す。お店を出てきた彼女たちがいっそうまぶしく見えるのは気のせいではないだろう。あの頃のように。

 表参道には、変わりゆく変わらないもの、がある。

 

*今週は松尾潔多忙につき、書き下ろしコラムはお休みし、過去の原稿を再録いたしました。
 なおABC青山本店は2004年7月16日に閉店後、同年9月29日に営業再開しています。

Vol.6 「トラスト・オーバー30」

 このところジェニファー・ロペスの新譜『リバース』ばかり聴いている松尾潔です。

 え?先週は「下り坂」なんて腐してたじゃないかって?それは確かにそうだと思うんですよ。残念ながら。でも好きなんだなあ、やっぱり。容姿が好きだから歌も好きになってしまった、という例。先日は『Shall We Dance?』を機内上映で観てウットリ。女性の本当の魅力は30代に入ってからですよ!と声を大にして言いたい。ちなみに日本人女性で私がメロメロなのは鈴木京香、吉瀬美智子、木村多江のお三方ですが、みなさんオーバー・サーティー。ま、こちらは歌手デビューの予定はないですね。

 さて。ジェイミー“レイ”フォックス、オスカー獲りましたね。いやあ、めでたい。ここは難しいこと言わずに素直に喜びましょう。まだご覧になっていない方は是非劇場に足を運んでいただきたい。誤読の余地がない演出はテイラー・ハックフォードの真骨頂。これぞ大衆芸術。レイさんといえば、本人とデイビッド・リッツの共著による伝記本『わが心のジョージア~レイ・チャールズ物語~』の日本語版がこのたび刊行されました。これはオススメ。音楽評論家・吉岡正晴氏の翻訳はいつも平易かつ適正で素晴らしいです。やはりこの手の本は音楽に精通した方の翻訳にかぎります。ちなみにデイビッド・リッツは数々のR&B伝記本の他にマービン・ゲイ「セクシャル・ヒーリング」の作詞者としても知られるお方。数年前に一度だけお会いしたのですが、タトゥーばりばり、ライダーズジャケットにジーンズという「ザ・不良白人中年」な容姿に驚いたものです。

 ところで、映画といえば『レイ』より何よりまず真っ先に観て欲しいのが『ファイティング・テンプテーションズ』。というのも、新宿高島屋のテアトルタイムズスクエアで3週間限定レイトショーで上映してきたこの映画も、いよいよ今週末4日(金)が最終日だからです。東京限定のネタで申し訳ありません。

 『ファイティング・テンプテーションズ』といえば、一昨年に出たサントラをご記憶の方も多いでしょう。この映画、R&B界からビヨンセ、オージェイズ、フェイス・エバンス、メルバ・ムーア、アンジー・ストーン、アン・ネズビー、モンテル・ジョーダンなど、ゴスペル界からはシャーリー・シーザー、ヨランダ・アダムス、ドニー・マクラーキン、ブラインド・ボーイズ・オブ・アラバマなどが出演しています。動くオージェイズを観たことがない、という方はこの機会に是非!

 私も先日高島屋に行ってまいりました。その夜はゴスペルサークルの会員さんとおぼしき方々が団体鑑賞中。何しろ布教映画ですからストーリーは単純明快です。じゃあ退屈かといえば、全編これ歌いまくりなので音楽ファンは飽きない。音楽監督はジャム&ルイスと盟友ビッグ・ジミー・ライト!1980年、ジョージアの黒人教会を舞台にした冒頭からアン・ネズビーの熱唱シーンが出てくるのだからたまりません。

 あと見どころはオスカー俳優である主演のキューバ・グディングJr.のブレイクダンス。これが凄くて驚きます。そういえば彼は84年のロス五輪ではブレイクダンサーとして閉会式に出ているのでした。ライオネル・リッチーの「オール・ナイト・ロング」にあわせて。68年1月2日生まれのキューバは、この時16歳。

 余談ながら、68年生まれの有名黒人エンターテイナーは非常に多いです。LLクールJが1月14日、ハル・ベリーが8月14日、ウィル・スミスが9月25日。実は私も68年組。キューバより2日遅れの1月4日生まれであります。先述のジェイミー・フォックスは67年12月13日だから、日本の感覚でいえば同学年ですな。彼らの活躍が妙に頼もしく感じられる今日この頃。よっ、ご同輩!

 それでは、また来週。

 

 女猫、いや、女豹です。

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