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2005-04

Vol.14 「そこにいる」

 今回は水曜日の更新に間に合いませんでした。ごめんなさいね。

 しばらくロンドンに行っていました。鷺巣詩郎さんのリーダー作品集『SHIRO’S SONGBOOK』シリーズ最新作(今夏発売予定)の制作のお手伝いです。お手伝いって何よ?という疑問にお答えしますと、「そこにいる」ということです…まあ誤解を招きかねない表現ですが、「そこ」とは勿論スタジオの現場であり、ときに選曲の現場であります。アーティストと共に語り、考え、無形のアイディアに形を与える場です。
 鷺巣さんのシリーズ全作をずっとお手伝いしてきたのですが、今回の新作はいつにも増して力のある内容に仕上がっています。ライナーノーツには『SONGBOOK』シリーズ恒例の「鷺巣詩郎×松尾潔対談」も掲載予定です。お楽しみに。

 成田空港。搭乗待ちのラウンジで退屈まぎれにパスポートをめくっているうちにわかったのですが、96年発行のこの巻でイギリスの入国審査のスタンプは26個ありました。9年間で27個目、ということは、大体4ヶ月に1回くらいの割合で行ってるんですね、ロンドンに。考えてみれば前回の渡英が先の正月でしたから、確かにまあそんなペースなんでしょう。ちなみにアメリカのスタンプは46個。3位はぐっと差をつけられて韓国の6個。あれ、そんなものなの?韓国は20代の頃のほうがよく(長く)行ってましたな。

 ロンドンは4月の陽気。定宿のあるリトル・ベニスの川沿いの舗道は、日本でいうヤエベニシダレの如き桜が満開。それはそれは美しかったです。風に落ちる花びらがケツメイシのRYOJI君の歌声を思い出させます。スタジオ近くのノッティングヒルの商店街ではTシャツ姿が目立ちました。
 とはいえ、ロンドンの一日は四季のごとし。昼下がり、商店街を行き交う人たちを見物しながらパブでひとりビールを呑んで温まったカラダも、気がつけば肌寒い風に晒されてしまいます。ちょうどポートベローのフリーマーケットの日でしたから、いくつかの店で検討して70年代製とおぼしきアクアスキュータムのスイングトップを買いました。裏地に惹かれて。コンディション極上、20ポンド。まあ悪くない買い物でしょう。

 以前書いて評判がよかったので、以下、「食」についてまた少々。いいでしょ、海外だし。

 今回は食通の鷺巣さんの誘いでロンドンの中心部から遠く離れた長閑な村ブレイ(Bray)を訪ねました。現在イギリスにはミシュラン三ツ星レストランが3軒あるのですが、そのうちの2つ…The Waterside Inn と The Fat Duckがこの小さな村にあるから不思議なものです。今回は躍進著しいThe Fat Duckへ。シェフのヘストン・ブルーメンタール氏は私と同い年とか。非常に興味をそそられます。 
 The Fat Duckは小さなパブにリノベーションを施したシンプルな内装で、テーブルは8つくらい、客は30人で満員というところでしょうか。味も確かに素晴らしいですが、それにも増して彩りやプレゼンテーションに特徴が。まあスペインの「エル・ブリ」の流れを汲む新派なんでしょう。物語性の強い料理です。
 19日に4時間ほどかけてデグスタシオン(18皿)を味わったのですが、その日の朝に左翼系新聞The Guardianに写真入りで今度は「世界一」と報道されたため、テレビ局の取材チームが3社ほど店外で慌しく放送準備をする中での食事でした。

 そうそう、ブレイにほど近いウィンザー城にも寄りました。チャールズ&カミラのウェディングで最近ホットな場所ですな。ほんとですかな。その日はエリザベスの滞在を示す女王旗が風に靡いていました。周辺の土産物屋街ではご成婚グッズが早くも値崩れ起こしていましたよ。私はおふたりの写真が焼き付けられたマグカップを購入。世界で最も高貴かつ下世話なマグカップでありました。

 それでは、また来週。

 

 2001年発売のDVD『5.1 GOSPEL SONGBOOK / 鷺巣詩郎』

「鷺巣詩郎×松尾潔 対談」の特典映像つき

Vol.13「過去原稿再録:『en-taxi』No.5(SPRING 2004) より」

 高校のOBに夢野久作がいた。彼の誕生日は自分と同じだった。そのことを私は入学オリエンテーションの卒業生紹介で知った。教師が自慢気に語る芥川賞の宇能鴻一郎や直木賞の梅崎春夫よりも誇らしく思えたのは、中学時代に『ドグラ・マグラ』を手にしていたからだ。

 数日後、教科書に欠損が見つかり、新品と交換するため新天町の金文堂本店に行った。教科書コーナーは二階だったか三階だったか。この本屋では上階に行くほど照明が暗くなるような気がする。参考書コーナーを通りかかるとサッカー部の三年生が二人して赤本を読んでいるのが目に入った。強面ぶって新入生に威張り散らしている連中が、陰ではコソコソ赤本チェックか。コソ勉野郎め。

 「先輩!お勉強ですか」と声をかけてニヤリと笑ってやった。二人は狼狽した。ひとりなど赤本を手から落とし、「何でお前はここにいる!」と私に逆詰問する始末。がしかし、もうひとりは後輩にコソ勉の現場を発見されて観念したのか、相方にツッコミを入れた。「そりゃ本買うためやろ。本屋にうどん食いにくるヤツはおらん」そのユルい口調が忘れられない。

 一階に下りて夢野久作コーナーを見つけ、『ドグラ・マグラ』の隣に置かれていた『狂人は笑う』を買った。今でもうどん屋から漂う出汁の香りに金文堂の暗がりと米倉斉加年の表紙画を思い出すのは、そういった理由に拠る。

*今週は松尾潔多忙につき、書き下ろしコラムはお休みし、過去の原稿を再録いたしました。
 en-taxi編集部より「想い出の本屋」というテーマで執筆を依頼され、寄稿したものです。
 時は1983年春。福岡金文堂本店。

 

 角川文庫版『ドグラ・マグラ(上)』

Vol.12 「オコタエシマス~その2~」

 早くも第2回目の「オコタエシマス」であります。

 この2、3週間ほどHPに届くメールの大半は東方神起に関するもの。あらためてその反響には驚きます。CS等で日本語デビュー曲「Stay With Me Tonight」のビデオのオンエアが始まったことも理由のひとつでしょうか。

東方神起のファンです。3月31日に彼らのMVを拝見しました。韓国での彼らの歌とは全く違っていて初めは戸惑いましたが何回も聴いているうちに頭から離れなくなってきました。爽やかなラテン??とでもいいますか、J-POPらしくて好きです。

 (以上、「mituki」さん。タイトル「聴けば聴くといいです!」)

 同様のお便りを多数いただいています。がしかし、東方神起ファンの皆さんの多くはメールをこのHPで「紹介しないでほしい」と。微妙なファン心理ですな。
 ”WHAT’ S NEW”でもご紹介していますが、既にアートワークやビデオも完成し、あとは4月27日のリリースを待つばかりとなりました。メンバーは相変わらずアジア中を忙しく移動しているようですね。引き続き応援よろしくお願いします。
 そうそう、シングルのカップリング曲の「Try My Love」も楽しみにしてください。私の個人的な嗜好が色濃く出たファンク・チューンで、正直彼らが歌うのはどうかな、とも思ったのですが、実際にスタジオでマイクに向かってもらうと予想以上の対応力で。なかなか歌えるもんだから、こちらもついついハードルを高くしてしまいます。ちなみにこの曲の作者のひとり和田昌哉さんは今日4月13日にデビュー。こちらも注目です。

 次は、先週のTBSラジオ「ストリーム」、TFM「YEBISU BAR」出演について。

TFMにゲスト出演したことを放送後に知りました。可能な限り、メディア情報をアップしてください。 

(以上、「kumi」さん。タイトル「メディア情報充実の願い」)

 同様のメールが数通ありました。いずれも急に決まった話だったので、情報の告知が遅れてしまいました。申し訳ありません。それでも放送数日前には”WHAT’S NEW”でご紹介していたんですが…残念です。今後はトップページ右上の”Update info”からまずご覧いただくように習慣づけていただくと嬉しいです。
 勿論、両番組を聴いて楽しかったとのご報告も届いています。ちなみに「ストリーム」では、「Life After 30」というテーマで、ジェニファー・ロペスとマライア・キャリーを比較してセレブリティー・ビジネスの現在についてお話ししました。「YEBISU BAR」ではDJの小山ジャネット愛子さんとエビスビールを呑みながらマービン・ゲイ論を。曲は”When Did You Stop Loving Me, When Did I Stop Loving You”と”Sad Tomorrows”をご紹介しました。 

 相変わらずデモテープ送付についてのお問い合わせもいただいていますが、以前にもお伝えしたように現在のところ本HPを使ってのオーディション等は考えておりません。どうかご了承ください。
 というわけで、今回はこんなところで。

 それでは、また来週。

 
 ”When Did You…”収録の『離婚伝説』ナリ。

Vol.11「小倉日記」

 先週末、所用で実家のある福岡に帰りました。滞在中にも余震を体験したり、それにさほど驚かない地元の人々がたくましく見えたり。
 今回はちょっと足を伸ばして小倉へ行ってきました。JR博多駅から小倉駅までは新幹線でひと駅、時間にしてわずか20分ほど。最近では西鉄の高速バスでも90分で行けちゃうそうで、これは往復1800円という料金設定ゆえに人気だそう。

 実は小倉には小学生の頃に1年半くらい住んだことがあります。住んでいたのは転勤族が多いエリアで、当然通っていた小学校にもその子弟が多く、身の回りでは転入と転出が日常的でした。そういえば古内東子さんも一時期同じ小学校に通っていたと本人から聞いたことがあります。彼女のお姉さんは私と同学年だそうですが、在学時期が重なっていなかったようですな。ま、余談でした。

 さて小倉といえばわれわれ音楽業界人にとってはラジオ局CROSS FMの本拠地としてなじみ深い場所でもあります。今回は同局の位置する北口ではなく南口へ。スケジュールの都合上、小倉に滞在できるのははじめから3時間と限られていたので目的地は2つに絞ったのですが、その2つとも南口方面なのでした。まあ時間が許せばCROSS FMにも遊びに行きたかったんですけれど。

 まずは小倉城を擁する勝山公園へ。その敷地内にある松本清張記念館こそが今回の目的地その1であります。よく知られているように清張は小倉に生まれ育ち、40歳を過ぎるまでそこで過ごしています(そのあたりの事情は自伝的な著書『半生の記』に詳しいです)。加えて小倉は『或る「小倉日記」伝』をはじめとした小説の舞台になることもまた多かったので、清張ファンにとってはまあ聖地みたいなものですね。

 記念館の最大の見ものは何といっても「思索と創作の城」と題された2フロアぶち抜きの展示。清張が1961(昭和36)年(ときに52歳)から1992(平成4)年に没するまでを過ごした東京都杉並区高井戸の家を忠実に再現したものです。これは圧巻。1階には応接間、書庫、2階にはまた書庫、資料室、そして書斎。いまにも家の主が現れてきそうなほどの再現度の高さには驚きますし、ご家族でさえ入るのを躊躇っていたといわれる文豪の書斎や書庫を目の当たりにするのは、何かイケナイモノを覗き見しているような背徳の悦びがありました。

 自分の好きな作家、とりわけ故人が過ごした家や土地を訪ねる。この行為には独特の興奮があるものです。そのことをはっきりと自覚したのは、昨年正月の旅で、壇一雄が暮らしたポルトガルのサンタクルスを訪れた時。ここであの人が思索に耽り創作の時を過ごしたかと思えば、自分の身体が熱くなってくるのがはっきりとわかります。今年の正月に福岡・能古島にやはり壇一雄の旧居を訪ねた時もそうでした。パワー、でしょうか。都心だと南青山6丁目の岡本太郎記念館もパワーにあふれた場所ですよね。

 小倉で文豪の旧居を訪ねるなら森鴎外のそれのほうがポピュラーでしょう。清張の「思索と創作の城」は、厳密にいえば旧居とは呼べない。移築というか再現ですから。でも小倉が清張にとって「愛憎の地」であることを知る読者からすれば、これが単なる再現ではなくもっと重層的なプレゼンテーションであることがわかる。そこにこの記念館の真骨頂があります。書斎の前で膝がガクガク震えましたよ私は。

 目的地その2は、魚町の鮨屋「もり田」。私は考えるところあって本コラムで「食」については具体的に店名をあげて語ることは避けてきましたが、今回は例外ということで。
 小倉に「もり田」あり、と以前からその名を聞き知っていたのですが、念願かなって今回初めてお店を訪ねることができました。ネタの中心は近海の幸であり、東京の名店とはやや趣が違う酢飯も私の口には合いました。また訪ねたいお店です。

 ところで「もり田」は文藝春秋の雑誌や書籍に掲載されることが多いのですが、店のご主人の奥様にお聞きしたところ、この店を贔屓にされているお客のひとりに文藝春秋の元社員がいらっしゃるそうで。よくよく聞けばその女性こそは松本清張記念館館長・藤井康栄女史でありました。まさに清張づくしの旅。小旅行の終章に相応しいオチがついたところで、私は小倉駅に向かい、再び車上の人となりました。以上、3時間。

 それでは、また来週。

 

 新潮文庫版『或る「小倉日記」伝』

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