Home > Archives > 2005-09-09

2005-09-09

Vol.30「過去原稿再録:『学食巡礼』琉球大学編」

 ビデオ撮影の仕事で出張した。だが、よりによって到着日に例年より10日以上早い梅雨入り。晴れ間を待つひとときを利用して琉球大学へと車を走らせた。

 レンタカー屋からもらった地図を広げると、琉球大学は高台の上に位置している。しかし、学校が近づいても坂道を歩く学生の姿が見当たらない。はて休みではと不安を抱えたまま上がっていくと巨大駐車場にたどり着いた。窓を開けて徐行しながら空きスペースを探す。

 停車する頃にはさっきの不安は氷解していた。ほとんどの学生は自転車もしくはバイクによる通学なのだ。この立地じたい、自動車社会が前提になっている。赤錆にまみれた状態の車が何台か見られた。ここはアメリカか。が、数多い軽自動車はここが日本の地方都市オキナワであることを示す。

 キャンバスの随所に生い茂る緑が目にしみる。あれはなんという名前なのか、花弁の青紫色はここが亜熱帯であることを雄弁に物語る。中央食堂と示された矢印だけを頼りに歩を進めることにする。すれ違う男子学生のなかには、顔の造作が沖縄出身であることの証左となるハンサム君も多い。自分の薄い顔がちょっとうらめしい。

 雨がやんだ。肌にまとわりつくTシャツが蒸し暑さを増幅する。午後1時、中央食堂の前は男女学生でにぎわう。遠目には首都圏の学生と何ら変わりない。が、すれ違うと語尾が上がる独特のイントネーションが耳に心地よく飛び込んでくるのだ。意識すると、ことさらにその種の特徴を耳が拾ってしまう。旅人の偏った思い出とはこのようにして形成されるのか。

 中に入る。まずカウンターで注文し、品を受け取り、後でまとめてレジで清算するオーソドックスなシステム。自分をびっくりさせてくれるような海の幸はないかと思ったが、品揃えは普通も普通。チャンプルーもない。まあそんなものかな学食。東京下町の学食だってもんじゃは置いてないしな。

 軽い失望を覚えつつ、麺類のコーナーへ。と、大林宣彦三部作の尾美としのり少年を思わせる、うるんだ眼差しの男子学生が厨房の女性に声をかける。「ソーキそばある?」。おっと、がしかし、人知れず興奮する私の期待もむなしく、彼女は「ないねえ」と。はあ。が、再びしかし、彼女はこう続けたのだ。「沖縄そばならあるよ」と。

 2分とたたず「沖縄そば」は出てきた。ソーキ(骨付き肉)ではなく三枚肉がのったそばである。無性に感動した私がその注文を繰り返したのは言うまでもない。それと、南国気分を出すべく生パイナップルを1皿。濃厚な地域色は旅人の自己演出の産物なり。

 レジ前からホールを見渡す。やはり端正な顔立ちが多いなあ。ISSAはいなくともKENなら結構いる。DA PUMPでいうとね。女子も上原多香子はいなくとも早坂好恵ならいる・・・・・・かも。清算が回ってきた。税込みで計436円。レシートには「371キロカロリー 塩0.2g」とあった。

*今週は松尾潔多忙につき、書き下ろしコラムはお休みし、過去の原稿を再録いたしました。
 松尾潔著『学食巡礼』(扶桑社・2002年)より。
 初出は『週刊SPA!』2001年6月6日号。

Home > Archives > 2005-09-09

Return to page top