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2005-10

Vol.36「サンタモニカ、1996年」

 突然ですが、ラジオ出演情報です。明日(10月27日)J-WAVE『BOOM TOWN』(09:00~11:30)にちらっとコメント出演します。10時50分前後のコーナーだそうです。残念ながら首都圏にお住まいの方しかお聴きになることができませんけど。お題は例のルーサー・バンドロス・トリビュート盤『So Amazing』。収録はすでに先日済ませておりまして、お気に入りの曲ベスト3なんて挙げてきました。お時間に余裕のある方はどうかお聴きくださいな。お聞き逃しの方は、先週もお知らせした山下達郎さんとの30日のNHK-FM『サウンド・ミュージアム』(19:20~22:00)を是非。こちらではルーサーのソロ曲のみならず、ボーカル・グループLUTHER時代の曲もオンエアします。

 10月19日に「グローリアス・ソウル・ジェムズ・シリーズ」と銘打ったソウル名盤シリーズが一挙11タイトル発売されました。アルバムによってはボーナス・トラックを多数収録し、紙ジャケ、各1890円という嬉しいリイシューです。先日、このシリーズの企画者で私とは旧知の栗原憲雄さん(ソニー・ミュージック・ダイレクト)からご連絡がありました。今回の目玉のひとつテルマ・ジョーンズと私がLAで会った話などをしているうちに、自分でも忘れかけていた記憶が少しずつ甦ってきました。ソニー屈指の洋楽マニアとして知られる栗原さんがたいへんな聞き上手でいらっしゃるせいでしょうか。

 1996年。その頃私が定宿にしていたサンタモニカの某ホテルのラウンジでテルマは専属シンガーとしての職を得ていました。私は28歳でした。が、おそらく彼女の目には成人したての若者と映っていたはずです。テルマは1942年生まれですから、その時すでに50代でした。合衆国内の地方からの客が多勢を占めるそのホテルのラウンジに、悲しいかな、昔年の彼女の名声を知るらしき者はひとりとて見当たりませんでした。ラウンジ・シンガーは聴き手を選べません。客は歌を目当てにそこに座っているのではないのですから。

 テルマはスタンダード・ナンバーや当時のTOP40ヒットを、類型的なラウンジ・ピアニストの伴奏で、類型的なラウンジ風解釈で歌っていました。酔客よりむしろなじみの従業員たちに向かって歌っているようにも見えました。唯一のアジア青年が彼女の歌声を「主体的に」聴き込んでいるとは想像もしなかったでしょう。終演後に彼女に声をかけ、ひそかに持参したアルバム『Thelma Jones』を見せた時の呆然とした表情が忘れられません。それからしばらくの間、彼女と楽しく歓談したのがいい思い出です。

 そのホテルのプールで泳ぎ、ジムでワークアウトをこなす。インタビューに出向いては客室に戻って原稿を書き、フロントから日本に原稿を送る。バーでビールを呑んで日が暮れるのを待つ。友だちとパーティーに潜り込んではセレブリティを見つけて感心し、ホテルに戻ってバーで酒を呑む…それが当時の私の平均的な1日の過ごし方でした。

 音楽と関わって生きていくうえで、この気ままな生活スタイルこそが最高だと思っていましたが、今となってはずいぶん規則的な毎日だったことにあらためて驚きます。アトランタ五輪の開会式もそのバーのテレビで観ました。長年誘われていたプロデュース業に本腰を入れ始めるのはそれからしばらくしてのことです。

 あれから10年近く。人生は長いが、1日は短い。最近ではそう思うようになりました。

 それでは、また来週。

 


『Thelma Jones』(1978)

Vol.35「横綱」

 何食べても美味しい季節。何を聴いても心ときめき…そんなわけないか。好きな食べ物も好きな音楽も、もう見つけてしまったかもしれません。
 それは悲しいこと? いや、生きる喜びでしょう。

 今週はレコーディングを1日だけ休んで、山下達郎さんとのラジオ特番を収録してきました。NHK-FM『サウンド・ミュージアム』(10月30日19時20分~22時)という番組がそれで、何と160分の超長尺。もう二人でずーっと喋りっぱなし。ソウルとR&Bかけっぱなし。すごいねNHKは。何しろテーマが「山下達郎と聴くソウルミュージック」ですからね。実際の収録では軽く見積もって放送使用分の2倍は喋りましたから、どういう編集になっちゃうんだろう。番組スタッフのお手並み拝見ですな。

 この種の番組は「趣味色の強い特番と見せかけて実際は新譜のプロモーション」というのが常なんですが、なんと達郎さん、番組スタッフが用意した26日発売のニューシングル「白いアンブレラ」を自らその場で選曲リストから外してしまいました。そのぶんソウルミュージックが多くかかるわけで。これには目の前の私も驚きました。勿論、これは達郎さんほどのキャリアのあるアーティストにしか許されないことです。しかし、「できる」からといって実際に「やる」人を、私は初めて見ましたよ。

 さて、スティービー・ワンダーの新譜『A Time To Love』がついに出ました。オリジナル・アルバムとしては10年ぶり。もうお聴きになった方も多いことでしょう。
 万人が認めるように私もスティービーのことを天才だと思う。天才の生み出す芸術の楽しみ方にもいろいろあるのでしょうが、スティービーに関してはもう彼の気まぐれに付き合ってとことん気長に待つしかないかと。喩えるなら、美しい蝶。それはいつも羽を休めている。目覚めて何か言ったかと思えば、それは寝言だったり。ひとたび優雅に羽ばたくと、まき散る金の鱗粉を浴びようと人びとは列をなす。

 秋の夜長に私がひとりで聴きたいスティービーの曲は、どこか力の抜けたもの。過去の作品だと「Creepin’」とか「Weakness」とか、ロバータ・フラックに書き下ろした「Don’t Make Me Wait Too Long」とか。今回のアルバムでは、7曲目の「My Love Is On Fire」でしょうか。歌いだしからもう吸い込まれそう。歌詞の内容的にはセクシーにして普遍、という佳品です。まあ彼の偉大なるレパートリーの中では箸休めのようなものかもしれないけれど。私の知己であるポール・ライザーが美しいストリングス・アレンジを手がけていますし、ヒューバート・ローズのフルート・ソロ(スティービー本人がメロディを書いたそう)もドク・パウエルのギターも私の好み。

 というわけで、今回は東西の音楽業界、寡作の両横綱についてお話ししました。

 それでは、また来週。

 


『Roberta Flack featuring Donny Hathaway』(1980)
「Don’t Make Me Wait Too Long」収録。
スティービーはラップまで披露するという大盤振る舞い。

Vol.34「お久しぶりです」

 お久しぶりですねえ。
 このところ弊社秘書から「いい加減、過去原稿再録は許しません!楽しみにしてホームページに来ていただいている皆さんに失礼です」と責められ続けていたのですが、言い訳も尽きてしまい。実に久々にコラムを書き下ろすことになりました。思えば開設当初、「書くのは苦手かもしれないが君も業務の一環として書くように!」と説得してレギュラーコーナーを持たせておきながら、彼女の皆勤ぶりをよそに自分はここしばらく10年以上も前の原稿の使いまわし。しかもベスト10形式。自分でもよくないなあ、と思っていたのですけれど。ほんと皆さんごめんなさい。

 でも実は彼女の抗議よりもっと切実な理由があって。つい最近、珍しく本HPへの日別アクセス数というものを詳しく調べてみたのですが、私のコラム更新予定日である水曜日を秘書の金曜日が上回っているんですよ。しかも私を絶望的な気分にさせることには、「秘書の後塵を拝する状態」は私のコラムが過去原稿再録ばかりになってしまったこの夏以前からのことなのでした!これにはぼくもまいったね、です。ヘコむなあ…。てゆうか、みんなボクのR&Bコラムって読みたくないの?(口調変えてみました)

 じゃあこれまでのコラムでどの回が最も読まれたかというと、東方神起についての記述の回を除けば、これがもう圧倒的に亀蔵・亀吉・緑子のことを綴った2回なんですねえ。てゆうかさあ、このコラム読んでる人ってR&B好きというよりカメ好きなわけ?(この口調ハマりそうです) 何だか悔しいのでその後の緑子については教えてあげません。

 最後に、知人からの指摘を受けて、以下お知らせを。
 6月だったかな、このコラムでもちらりと触れた私の選曲・監修によるUS R&Bのコンピレーション盤が10月26日にめでたく発売されます。ありがたいことに、めったにコンピレーション盤を取り上げることのないというBMR誌のレコード評でも最新号(11月号)でピックアップされており、評者・川口真紀さんの好意的な紹介文も嬉しいのですが…なんと、肝心のアルバムタイトルが抜け落ちています!87ページで紹介されている『Be Mellow …Foreplay』の正式なタイトルは『美メロ伝説 第0巻』です。前者名義で探してもどこにも売っていませんのでご注意くださいな。

 ちなみにこの10月26日は日本のR&Bマーケットにとって大切な1日でありまして、新譜日本盤のリリース・ラッシュ。ルーサー・バンドロスのトリビュート盤(私の長~い解説付き)、アリシア・キーズのライブ盤、そしてデスチャのベスト盤が同時に店頭に並ぶというたいへんな1日です。要するに、年末商戦の始まり。はい、年末ですよ。

Vol.33「過去原稿再録:『BMR』(1991年1・2月合併号) 1990年 年間ベストCD / レコード」

1位 LEVERT:Rope A Dope Style
2位 BELL BIV DEVOE:Poison (single)
3位 JOHNNY GILL:Johnny Gill
4位 ZAN:Zan
5位 CARON WHEELER:U.K. Blak
6位 EN VOGUE:Hold On (single)
7位 BLAZE:25Years Later
8位 ROBERT OWENS:Rhythms In Me
9位 KIPPER JONES:Ordinary Story
10位 GERALD ALSTON:Gerald Alston

 こうして列挙してみるとメジャー路線ばかりという感じ。自分でも意外です。今の時点でシングルが出回ってないけど、LLクールJの”Around The Way Girl”、D-ナイスの”It’s Over”、クワメイの”Ownlee You”の3曲はよく聴きました。それから、アン・ヴォーグについて。この曲は90年代の「ガット・トゥ・ビー・リアル」といえるかもしれませんね。いい曲です。いま現在よく聴いているのは、ビッグ・ダディ・ケインの新作です。

※ 今週は松尾潔多忙につき、書き下ろしコラムはお休みし、過去の原稿を再録いたしました。文中の「ビッグ・ダディ・ケインの新作」は『Taste Of Chocolate』のことですね。

 


リヴァート。この色彩感覚!

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