Home > Archives > 2005-10-21

2005-10-21

Vol.35「横綱」

 何食べても美味しい季節。何を聴いても心ときめき…そんなわけないか。好きな食べ物も好きな音楽も、もう見つけてしまったかもしれません。
 それは悲しいこと? いや、生きる喜びでしょう。

 今週はレコーディングを1日だけ休んで、山下達郎さんとのラジオ特番を収録してきました。NHK-FM『サウンド・ミュージアム』(10月30日19時20分~22時)という番組がそれで、何と160分の超長尺。もう二人でずーっと喋りっぱなし。ソウルとR&Bかけっぱなし。すごいねNHKは。何しろテーマが「山下達郎と聴くソウルミュージック」ですからね。実際の収録では軽く見積もって放送使用分の2倍は喋りましたから、どういう編集になっちゃうんだろう。番組スタッフのお手並み拝見ですな。

 この種の番組は「趣味色の強い特番と見せかけて実際は新譜のプロモーション」というのが常なんですが、なんと達郎さん、番組スタッフが用意した26日発売のニューシングル「白いアンブレラ」を自らその場で選曲リストから外してしまいました。そのぶんソウルミュージックが多くかかるわけで。これには目の前の私も驚きました。勿論、これは達郎さんほどのキャリアのあるアーティストにしか許されないことです。しかし、「できる」からといって実際に「やる」人を、私は初めて見ましたよ。

 さて、スティービー・ワンダーの新譜『A Time To Love』がついに出ました。オリジナル・アルバムとしては10年ぶり。もうお聴きになった方も多いことでしょう。
 万人が認めるように私もスティービーのことを天才だと思う。天才の生み出す芸術の楽しみ方にもいろいろあるのでしょうが、スティービーに関してはもう彼の気まぐれに付き合ってとことん気長に待つしかないかと。喩えるなら、美しい蝶。それはいつも羽を休めている。目覚めて何か言ったかと思えば、それは寝言だったり。ひとたび優雅に羽ばたくと、まき散る金の鱗粉を浴びようと人びとは列をなす。

 秋の夜長に私がひとりで聴きたいスティービーの曲は、どこか力の抜けたもの。過去の作品だと「Creepin’」とか「Weakness」とか、ロバータ・フラックに書き下ろした「Don’t Make Me Wait Too Long」とか。今回のアルバムでは、7曲目の「My Love Is On Fire」でしょうか。歌いだしからもう吸い込まれそう。歌詞の内容的にはセクシーにして普遍、という佳品です。まあ彼の偉大なるレパートリーの中では箸休めのようなものかもしれないけれど。私の知己であるポール・ライザーが美しいストリングス・アレンジを手がけていますし、ヒューバート・ローズのフルート・ソロ(スティービー本人がメロディを書いたそう)もドク・パウエルのギターも私の好み。

 というわけで、今回は東西の音楽業界、寡作の両横綱についてお話ししました。

 それでは、また来週。

 


『Roberta Flack featuring Donny Hathaway』(1980)
「Don’t Make Me Wait Too Long」収録。
スティービーはラップまで披露するという大盤振る舞い。

Home > Archives > 2005-10-21

Return to page top