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2008-01-13

Vol.67「迷えども惑わず」

 2008年初めてのコラムです。今年もよろしくお付き合いください。 

 今回は実は松尾潔40代初めてのコラムでもあります。さよう、去る1月4日、小生無事に40歳の誕生日を迎えたことをご報告いたします。 

 元日はやはり今年不惑を迎えるラッパーのK DUB SHINEを誘って初詣に行きました。 お御籤を引いては二人して一喜一憂。その後はコーヒーショップでまったりと歓談していると、あっという間に夜の帳は降りてきて。40代もこうして日々は過ぎていくのでしょうか。現状維持? ならば幸せなのでしょう、きっと。趣味をそのまま仕事にしてしまったことの恍惚と不安、愉悦と後悔を、バランスは違えども二人は共有している。 

 と、私たちのテーブルにひとりの若者がやって来ました。K DUBに向かって自分がファンであることを告げ、サインを求めました。快諾を得た彼は履いていた真っ白なスニーカーを脱ぎ「これにお願いします」と。K DUBは若者に「何の仕事をしてるの?」などと話しかけながら、物慣れた感じでペンを走らせます。私はK DUBよりむしろ若者に感情移入し、年の初めに憧れのラッパーに巡りあう興奮を想像してみました。グラフィックの仕事をしているという彼はまだ20代になったばかりとのこと。ちょうど半分かぁ。

 若者の差し出す名刺にはヒップホップの影響の色濃いグラフィティ調のロゴが添えられていました。こういうタッチの仕事してるんだ?と、そこで私も初めて口をはさみます。彼は緊張した面持ちで「なかなか仕事ではまだこういう(センス)の出せないんですけど」と言い、それでも「頑張ります!」と締めました。サインを書き終えたK DUBからスニーカーを受け取った若者は、素早くそれを元の足に戻しました。ぎこちない笑顔はどこか泣き顔にも見えましたが、それはきっと私の気のせいだったのでしょう。彼は一礼すると店奥のテーブルに戻っていきました。遠くでこちらに不安げな視線を送り続けていた恋人らしき女性に手を振りながら。

 さて、誕生日の前日からは今年初めての海外出張でした。時差のせいで30代最後のバースデイ・イブは40時間超の長い長い一日となり、悪友からは「最後の悪あがき」と揶揄されましたけどね。面白いので否定はしなかったけれど、その実わたし自身は「その日」を迎えるのを楽しみにしてもきたのです。仕事を始めた頃、若さによる経験不足を理由に意見を否定されるという悔しさをさんざん味わいましたから。

 ジェットラグもとれてきた数日後、宿泊先のホテルで朝食をとっていたら、そのレストランの中でもひときわ楽しそうな家族客に目が留まりました。祖父らしき年老いた男性の両脇ではしゃぐ幼児たち。あのおじいちゃん、どこか見覚えがあるな…。何と、バート・バカラックでした。後で気づいたのですが、彼は今年80歳になるんでしたね。ちょうど倍かぁ。ともかく、40代最初に遭遇したセレブリティはバカラック。悪くない話です。

 40歳になった途端に迷いが消えるなんてことがある筈もない。予想はついていましたが。私だけではありません。周囲を見回してもこの世代はみんな道に迷っている。むしろ迷いはよりその具体度を高めていくようで、10代から抱き続けた将来への漠たる不安はそのまま、ただ現実が厚みを増していくだけなのかもしれません。

 がしかし、気がつけば、消え去ることのない迷いそれ自体に戸惑うことは殆どなくなりました。こう云うとあたかも達観してるようですが、そんなカッコいいものではないです。これを中年のあつかましさというのかもしれないな。ただ、年が変わり誕生日を迎えるたびに新しい年齢を言えること、それは幸せだと心から思います。

 それでは、また次回。

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