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2012

Vol.074「2012年、秋の活動報告」

秋の存在感がどんどん希薄になってゆくような気がしています。夏の残り香が消えぬうちに冬将軍がやってくるものだから。いつの頃からでしょうね。よく言われるように地球温暖化のせいなのか。もちろんそれと無関係ではないにしても、私たち日本に住む者たちの「秋レーダー」が鈍感になってきていることも否定できないような。つまり目の前の秋を感知できなくなったのでは。

bmr.jpの「メロウな日々」休載にあたり、それを残念がってくださる方がたが少なくないことを知って恐縮しつつも嬉しく思っています。みなさんのお心遣いへの御礼として久々にこのコラム欄に拙稿を寄せる次第。

では近況を。まずは音楽プロデュースの話から。

先週11月28日にFLOWERのシングル「恋人がサンタクロース」がリリースされたばかり。もちろんユーミンのカバーです。おかげさまでオリコン週間ランキングのトップ10入りしました。ミッション達成。ホッ。嬉しいかぎり。なおカップリングにはこれまた私がプロデュースした彼女たちのデビュー・シングル「Still」(2011年5月リリース)の特別バージョンを付しています。

FLOWERといえばEXILEを擁するLDH所属ですが、いま私はそこの男性デュオBREATHE(宮田慧・多田和也)のデビュー・アルバムをプロデュースしています。その内容というのがちょっと異色でして、私がこれまでにプロデューサーあるいは作詞家、作曲家として手がけてきた楽曲だけをカバーしたもの。要するに「松尾潔作品カバー集」という趣です。EXILEをはじめ、平井堅さん、CHEMISTRY、久保田利伸さん、鈴木雅之さん、JUJUといったアーティストたちの作品のカバーを収録します。曲によってはスペシャルなゲストもお迎えして。当初スタッフからこのアルバムの提案を受けた時は少なからず困惑も抱いたものですが、いざ蓋を開けてみれば面白い作品に仕上がりつつあります。何よりBREATHEの歌いっぷりが素晴らしい。年明け1月30日に発売予定です。

同じ1月30日には楽曲提供とプロデュースを手がけた由紀さおり さんのシングル「愛だとか」もリリースされます。由紀さんといえば先ごろ紫綬褒章を受章されましたね。たいへんおめでたいことです。そんな彼女とは幸いフィーリングが合うみたいで、このまま一緒にアルバムを作っちゃおうかという話になっていますよ。どうかご期待ください。

ほかには、韓国いやアジアを代表するモンスター・グループBIGBANGのボーカルD-Liteさんのソロ作品や、日本の男性芸能事務所最大手のユニットも初プロデュースしています。いずれも然るべき時期にスタッフブログで詳細をご報告する予定なのでお楽しみに。

つづいて、音楽以外のお話。

何しろ本業の音楽プロデュースで忙しくしているものですから、それ以外のことになかなか大きな時間を割けません。となると冒険心も控えめになってくるもので、たとえば外食をするにしても新規開拓には腰が重くなりがちに。「ハズしたくないなあ」という思いがあまって、結局行くのは以前からお気に入りのお店や、信頼できる知人からの紹介を受けた名店に限られてしまいますね。

映画にしたってそうです。このひと月のあいだに映画館に足を運んで観たのは『最強のふたり』『思秋期』『人生の特等席』『恋のロンドン狂騒曲』の4本。こうして並べてみるとつくづく保守的なラインナップですよねえ。観る前から駄作ではないと判別できるものばかり。実際どれも滋味ぶかかったなあ。なかではウディ・アレン監督の『恋のロンドン狂想曲』で描かれる人生のままならなさとおかしみが特に胸に沁みました。一発屋作家ロイを演じるジョシュ・ブローリン最高! 冒頭と終盤にシェイクスピアの『マクベス』の台詞を配していましたが、アレンはまさにいまを生きる私たちのシェイクスピアなのかもしれません。本人も少なからずそれを意識しているのでしょうしね。

こういった食や映画のチョイスを無理やり音楽に置き換えて言うと、キース・スウェットやジョーの「相変わらず」な新作をえんえんと買いつづける行為に似てるかも。ま、私の価値感のなかでは、多くの場合「相変わらず」は誉め言葉なので。

あえて付言するならば、比較的余裕がある時期は、厄介で愛おしい駄作たちにもそれなりに触れていますよ。

そういえば先月25日にはEXILEのHIROさん、MAKIDAIさんと一緒に慶應義塾大学の学園祭『三田祭』に招かれました。「メディアと音楽」なるお題の公開シンポジウムにパネリストとして参加し、忌憚なくおしゃべりさせていただきました。同大学で講演するのは2009年の菊地成孔・大谷能生両氏による講義に招かれて以来(その模様はのちに『アフロ・ディズニー2』として刊行されています)。

学生さんたちと同じ空間にいるのは心地よい刺激があって悪くないものですね。また学生の立場に戻って大学に入り直したいくらいです。ハードな受験勉強さえなければの話ですけれど。

来週の火曜、12月11日の夜には新宿のブルックリンパーラーでDJを務めます。バルト9の地下といえば映画好きにはわかりやすいのかな。飲食代だけで楽しめますので、お近くのかたはどうぞお立ち寄りください。

それでは、また次回。

三田祭

Vol.073 「過去原稿再録:『BRUTUS』(1995年3月1日号)スパイク・リー in ブルックリン」

 『マルコムX』はアメリカよりむしろ日本で受けた。そのことにはとても感謝してるし、とてもうれしい。日本人は私のことをよく理解してくれるんだね(笑)

 私の映画が公開されると、批評家はそこに政治的、民族的な意味を見出そうとする。日本でもそういう状況があることは知っている。私の映画の構図や配色といった技法的側面に目を向ける人はそうそういない。

 でも、だからといってそれが不満かといえばそうでもないんだ。そういった見方が間違っているわけではないし、第一、そういう視点で私の映画を観てくれるのは本意だし。

 日本の映画監督だと黒澤明が好きだ。前回日本に行った時に実は対談することになっていたんだけれど、あいにく彼が病気のとのことで会えなかった。残念だったよ。あ、日本に行ったのは映画学校から招かれたからなんだけれどね。

 あと小津安二郎も勅使河原宏もいいね。彼らの映画は好きだ。

 日本人で知っている人?オウ。王貞治。なに? 彼は日本人じゃない? チャイニーズだって? でも日本で生まれ育ったんだろ? 王が日本人じゃないとしたら、国民的英雄をひとり失っちゃうようなもんじゃないのか?

 そうそう、『戦場のメリークリスマス』に出てた音楽家……誰だったっけ?坂本龍一? そうだそうだ。彼の音楽はとても好きだよ。

  95年が映画誕生100年ということは知っている。映画というものは、つまり……時の流れという淘汰を宿命づけられているんだ。例えば89年、私の『ドゥ・ザ・ライト・シング』がオスカーの候補に挙がった時、結局受賞したのは『いまを生きる』のほうだった。でも、今でも観つづけられているのはどっちだい?いい映画というものはそうやってしっかりと残っていくものなんだ。

 ブルックリンで育ったけど、ジョージアのモアハウス大学に行った。それからNYUに入って映画を真面目に勉強した。今一緒に仕事をしている仲間はNYU出身が多い。私の映画でよく撮影監督を務めてくれるアーネスト・ディッカースンも古い仲間だ。彼は本当に素晴らしいカメラマンだよ。

 今、マーティン・スコセッシと一緒に仕事をしている。『クロッカーズ』(原作 / リチャード・プライス)という殺人ミステリーなんだけれど、私が監督、彼はプロデューサーをやっている。いいかい、殺人ミステリーといっても『ディープ・カヴァー潜入捜査』みたいなもんじゃないからね。一緒くたにするなよ。

その次は『ジャッキー・ロビンスン物語』。これは97年公開。97年はジャッキーが黒人として初めて大リーグに入ってからちょうど50周年なんだ。彼を演じるのはデンゼル・ワシントン。期待してほしい。

※事務所から古い原稿が発見されたので掲載します。199412月、当時26歳の松尾がニューヨークのブルックリンへと出向き、スパイク・リーのオフィス(40 Acres and a Mule Filmworks)で行った対面取材をまとめた原稿ですが、『BRUTUS』担当編集者の方のミス(?)で松尾のクレジットがないまま同誌に掲載されたという曰く付きのもの。そのことに憤り落胆した松尾が、以後ライター業から音楽プロデュース業へと転向してゆく一因ともなったそうです…。

Vol.072 「過去原稿再録:読売新聞(東京版)2009年9月16日より」

 

歌いつづける人生が夢だった。

歌うことは生きることだった。

 

歌う私を見て、古いシネマのヒロインのようだと人は言った。

数年後、ほんとうに映画のヒロインになった。

おおぜいの傷ついた兵士のために歌ったことがある。

私の声は子守唄のように癒してくれると彼らは言った。

 

ほんとうの愛の意味も知らずに愛を歌っていた。

それでも人は聴いてくれた。涙をながしてくれた。

ここにはうつくしい愛があると。

 

運命の恋をして、命をかけてその人を愛した。

新しい生命を授かり、本物の子守唄を歌った。

傷つけあうことで情熱をたしかめた。

うしなった愛に悔いはない。

 

新しいだけのうたはいらない。

最高のうたを歌いたい。

今ならば、今だから、私に歌えるうたがある。

夢はとりもどせる。

 

 

松尾

 

 

*ホイットニー・ヒューストンさんがお亡くなりになりました。享年48。
2009年、『アイ・ルック・トゥ・ユー』日本発売にあたり松尾潔が寄せた散文詩をここに再録し、
追悼の言葉と代えさせていただきます。May her soul rest in peace!

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